やりたいことを仕事にするべきじゃない?
「好きなことを仕事にしちゃうと、純粋に楽しめなくなっちゃうから趣味は趣味にしておいたほうがいいんですよ。」
と美容師のお姉さんが言った。僕は町田のお気に入りの美容院で勿論髪を切ってもらっていて、大沢たかおみたいにして下さいと頼んだ後の雑談だった。
美容師さんは髪を切るのが好きで美容院になったに違いないので、「好きなことを仕事にした」人なのだろうと思う。それだけに「そうですかー?そんなことないと思うなー」とは返しづらい言葉だと思った。言葉に重みがあったのだ。
とはいえ、髪を切るのが趣味っていうと何だ、家族とか友人に「切ろうか?」とか言って切らせてもらうってこと?何だか現実味に欠ける。
僕の祖母は床屋だったので(ちなみに床屋って放送禁止用語だそうです)母もその仕事を手伝っていた過去があり、子供の頃は母にちょろちょろ切ってもらったりしていた。
でも面白いのってやっぱり初対面の相手の髪をパーッと切って、すごいイメージチェンジさせたり、デートの後押ししてあげたり、大学デビューの力添えをしたりしてハッピーにさせることなんじゃないかなって思う。
完全に最初に「これだ!」っていう仕事につけなくても、方向性があっていれば自分で何とかやっていけるんじゃないかと思っている。だいたい小さい頃からやりたいこと決めておけだなんて、割と無茶じゃん。と思う。
僕なんか小学校の頃、職業の種類なんて20個くらいしかないと思っていたので、やりたいことなんて決まらなかった。
ちなみに思いついていたのはサッカー選手・野球選手・医者・動物園の飼育係・消防士・警察官・政治家・宇宙飛行士・先生・車掌・タクシーの運転手・俳優・ニュースキャスター・マジシャン・歌手・作家・絵描き・弁護士・サラリーマン
そもそもサラリーマンをサラリーマンで一括りにする小学生の僕の浅はかさに言葉も出ないけれど、僕は小学生のとき、サラリーマンはネクタイをしめて電車で会社に行き、お金を製造している人たち だと思っていた。この製造したお金を給料として貰ってきているのだと考えていたのである。正真正銘のバカだと思うけど。
話は戻るけど、
最近僕が読んだ本には「若いうちなんて世の中のことわかっちゃいないのに好きなことなんて見つかる訳がない。そんなことをするよりも、今の仕事を好きになるように工夫しなさい」ということだった。これは結構筋が通っているなと思って僕の中では刺さった。確かにどんな仕事にも苦痛はあるし退屈でイライラすることもあるのだから、自分の仕事を好きになっちまった方が良い。
☆
はい、これで出来ました。
と言われて鏡を見ると、あんまり大沢たかおっぽくない僕がこちらを見ていた。
大沢たかおっぽくはないが、前よりは元気そうな印象を与える顔面をしていた。ような気がする。
あの美容院のお姉さんはこの後も何人も髪を切って、時には文句を言われたり理不尽な目にあって「OLになっときゃ良かったかなー」なんて思いながら髪を切り続けるのかもしれない。でも例えばもしその人は本気でOLに転職しようとしてハサミを置いてしまったとして、一ヶ月もしないうちにうずうずして誰かの髪を切ってあげたくなるに違いないのだ。そうであれば素敵だと思う。