名刺に載せるキャッチコピーが8回却下された話
こんなタイトルの記事があったら読みたいなと思ったので書く。
もちろん嘘っぱちなんかじゃなくて今日あった話だ。
名刺にキャッチコピーが入ることになった。そのキャッチコピーは当然自分で書かなくちゃならないんだけど、「前科2科です!」とか書いたら大変なことになるから一応社長の承認を通さなくちゃならない。
営業とかのキャッチコピーは「Hot mind, Cool Brain」とか、「想いをカタチに」とかとにかくかっこいい。デザイナーも「可能不可能ではなくどうしたらできるかを考える」とかも良かったなぁ。なんて、人のばっかり見てないで自分の考えなくちゃと思い直す。
せっかくデザイナーなんだしお洒落な感じがいいかな。ちょっと一捻りというか。「誠心誠意がんばります」なんて誰でも思いつきそうだし(なんて、傷ついてる読者がいたりして)「時間厳守」なんて標語じゃあるまいし。名刺に載せるならやっぱりその人らしさっていうか、心に残るやつがいいな。
人事への新規メールを開いて案を送っていく。人事は基本的に「駄目」とは言わないから、要するに社長のお気に召すかどうかだけが問題になる。
そこで考えた。
「好きな花、金木犀」
→却下
「あ、この人金木犀好きなんだ。いいですよね、金木犀。」なんて話弾むと思ったんだけどな。ちょっとポケモン図鑑みたいでよくなかったかな。
「Ctrl+S」
→却下
パソコンのショートカットキー。保存。
名刺を捨てないで保存してねっていうデザイナーならではのシャレだったんだけど...ひねりすぎたかな?
「学べどもなお学べども学べども学び足りぬは学びなりけり」
→却下
新渡戸稲造「武士道」より。上二つがダメならもうがっつり真面目系で格言でいったんだけどな...。長すぎたか?ちょい長すぎたかな?長いと目立つと思ったんだけど。
「時速20km」
→却下
さすがに駄目か。遊びすぎたか。元陸上部アピールで、仕事のスピード感を出そうとしたんですとか無理があったか。結構社長も堅いのかな。
「情熱は約束を守る!」
→却下
これは却下の返信が来た時に「ふぁっ?!」ってなった。もうここまで却下されたら遊ばずにいくぜって諦めて出したのに。BUMPの藤原基央の名言だってばれてたのかな?
「誠実設計、ベリーベリーストロング」
→却下
だめか!薄々思ってたけど駄目か!ベリー一個多かったかな。いや、いずれにしても駄目だった気がする。ベリーベリーストロングを斉藤和義から引っ張ってきたのばれてたかな。
「超努力型前向き思考」
→却下
これはどこかで駄目だろうなと思ってた。意味わかんないしね。ちょっと遊びたいのはみでちゃってるよね。反省。
「上善如水」
→却下
これは理不尽だった!いいじゃん黒田如水!言葉もすごく深いし、この言葉を座右の銘にしているサラリーマン多いってきいたのに。
「新しい機会に着目し、創造する。」
→承認
結果これが通りました。
もう遊びでも何でもないっていうか、社会人として相当真面目なものが求められていたのだなーと「ベリーベリーストロング」あたりで思った。まぁ面白くするために小分けに発表したけど実際には4つくらい塊で送信して一気に駄目だしされてるから社長の時間とらせまくってるわけじゃないからね。
「新しい機会に着目し、創造する。」っていうのはもはや俺と縁もゆかりもない人なんだけど、ピーター・ドラッガーっていう"経営学の巨人"と呼ばれた経営学者。まぁ、経営学者の格言だから社長にもどこか響くところがあったのかもしれない。
ただし、僕は意図的にこの格言をトリミングしていて、「問題解決を図るのではなく、新しい機会に着目し創造する。」というのが正しい文章。でもこれをこのまま載っけていたらまず間違いなく却下だったと思う。
問題解決を否定するっていうのは現代においてもすごく画期的な考え方だと思う。もちろん問題解決を先延ばしにするのは自分の首をしめることに繋がるんだけど、
問題解決っていうのは根本的に損害を抑えることはできても利益を増やすことにはつながらないという考え方もできる。当時アメリカでは小中学校から「問題を解決する」授業はプログラムとして熱心に教えてたんだけど、「まったく新しい方法で挑戦する」ことはちっとも教えてこなかったんだな。だから20世紀のアメリカには「問1」に対する「答え」しか対応できない社会人が溢れ返っていたんだ。そういう中で「新しい機会に着目し、創造する。」ことの出来る人材が求められるようになった。
新しいアイデア、革新的な発想。
ドラッガーの経営学は現代でも外せない経営的な視点だけど、デザイナーとしてこれを実践するのも面白いかなって思ったのは帰りの電車に乗ってからだ。
そういうことがあって、来春からぼくの名刺には「新しい機会に着目し、創造する。」がつきます。
なーんか、かっちょいいじゃん。