外人助けたらラグビーの試合応援することになった話
人生は偶然に満ち溢れている。
池袋からの帰り、渋谷での乗り換えにて山手線のホームで困っていそうなデカイ外人がたむろしていた。iPhoneを片手にホームの車両地図を見ていて完全に見当違いだったので話しかけた。聞いてみると渋谷にバーがあってそこで友達と待ち合わせてて、もう既に遅刻してるんだけど改札口もどっちへ行けば良いのかわからなくて..とのこと。
地図を見せてもらうとロフトがあったりとかそっちの方だったのでハチ公口改札へ案内する。
僕は乗り越し清算しなくちゃいけなかったので乗り越し清算機に並んで切符を買い直したんだけどそしたら外人がいなくなっちゃった。
多分僕の案内が終わったと思ったのか、あるいは改札でちまえばこっちのもんだぜって思ったのかなんだろうな。などと思ってそのまま帰ろうとしたらスクランブル交差点でiPhone片手にまだうろうろしている。
言わんこっちゃない。一度案内したからには最後まで連れて行ってあげたい。あと彼をバーへ連れて行けば新たなバーが開拓できるし、なんかアンダーグランドな面白いバーを体験できるかもしれないという不純な動機を持ちながら彼に追いつき、目的地まで案内する。彼はけっこう急いでいた。
ついた。
オールドゲート。(発音はアゥルドゲイツみたいな...イギリスなまりはわからん)
外人はなんか喜んでた。
「ぬるいビール、ひどい飯、ダメな接客。ようこそ。」
果たして完全にアンダーグランドであった。
イギリス系のハブだった。
足を踏み入れると店員も客もみーんな白人。
完全に英国領土と化していた。何年も通り過ぎていたビルの二階にこんなところがあったなんて...。渋谷という街の奥行きには(好きじゃないけど)驚かされる。
日本語の案内はどこにもない。
案内した外人が「ビールおごるよ!」って言ってくれたので喜んで戴く。
店員さんが(三部作目あたりのエマワトソンにそっくり)どのビールにする?って聞いてくる。「アサヒビールにしたら?」って隣から言われたけど「イギリスのビールがいいな。おすすめは?」(非常に手慣れたように見せる小手先のテクニックだけどその実何も考えていない)って聞いたらクラフトビールみたいなのが出てきた。名前は忘れた。
案内した外人は(名前聞いたから仮にジムとする)友人と無事合流して談笑している。「あ!これ孤立するやつだ!進研ゼミでやったことある!」と思った僕は絶妙なタイミングでジムの友人に話しかけて自己紹介をし、その輪に潜り込んだ。
改めて変な店だ。もう素敵。また行く。
パブのルールが壁にかかっている。要するにこの店で「ファ○ク」とか汚い言葉を吐いたりすると罰金100円とるよってことだ。そうそう、罰金といえばトイレも面白かった。
全部罰金制。
これってお国柄なのかな。それとも半分ジョークなのか?
二人で入ると罰金とか具体的だな。よせよ...。
1m以上トイレットペーパーを使用した場合とか急にセコくなって笑える。
とにかくなんか面白いとこきちゃったんだよ!道案内したら!
ジムが「今日は大切な試合なんだ」とご機嫌に話す。
なるほど店内には少し大きいテレビがかかっていて、今まさにラグビーの試合が始まるところだったのだ。イギリス人ってラグビー好きだよなぁ。
屈強な男達が神妙な面持ちでフィールドに入り、2つのチームが向かい合って国歌を歌う。黒いユニフォームと黄色いユニフォームの試合。
黒がニュージーランドで黄色がオーストラリアだそうだ。ジムがニュージーランド人って言ってたから、黒を応援しているのだろう。そういえばジムは選手と同じ黒いシャツを着ていた。サッカーのサポーターなんだな、要するに。W杯の様子をニュースでやるときによく飲み屋で試合を見守るユニフォーム姿のサポーターたちを観たけれど、まさかこんな形でその渦中に巻き込まれるとは思わなかった。突っ込んで行ったの僕だけど。
そういうわけでハブ内は全員黒チームを応援していて、そのために集まってきているみたいだ。僕も黒いチームを応援することにして、黄色いチームを憎んだ。
「試合は80分で、前半と後半で40分ずつなんだ。」とジムが説明する。
そういえば高校時代体育の授業でラグビーをやっていた。
その埃まみれの記憶を辿るとちょっとだけルールが蘇ってくる。
サッカーと同じでゴールを目指す点入れゲームなんだけど、相手にタックルしたりボールを持って走ったかと思えば蹴飛ばしたりとか自由度が高い。
ボールを向こう側のゾーンにぶち込んだら得点がどばっと入って、そのあとボーナスステージが始まる。サッカーのPKみたいに選手一人がボールを蹴飛ばしてゴールゾーンに入れたらちょっとだけ得点がさらに加算されるという。それを繰り返す。
試合は接戦だった。3-0が3-3になり、3-6になったかと思えば8-6になり...という具合に(あくまでうろ覚えなので得点の仕組みはご容赦ください)ぎりぎりのところでせめぎあっていた。観客はゴールが入ったり入れられたり、向こうが反則したりするたびに「アアアアアァ」とか「ゴゥゴゥゴゥ」みたいなことを叫びまくっていた。僕も叫びまくった。その間に客がどんどん入ってきて立ち飲みの客も増えてきた。ハブの熱気はさらに高まっていった。
面白かったのは得点を入れられた時に客がよく「ふぁっ....!!」みたいに禁句を言いかけて止めてたのが笑った。くしゃみみたいに。その代わりに「ダン」とか「サケ」とか言ってること変わんねーじゃねぇかって思ったけど。あ、ビールはぬるかったです。
結局試合は最後の方で一気に決められてしまって負けてしまった。僕もとても悔しかった。生まれて初めて積極的な気持ちでスポーツ観戦を楽しんだ。
ジムに「お、おい大丈夫?」って聞いたら「うん大丈夫大丈夫。そうだね...悔しかったけど..接戦で良い試合だったよ!それが一番だ。そういうの日本語でなんていうの?」
と聞かれたので
「試合は終わってもその後は次の試合までのハーフタイムに過ぎない。ってね。」
と日本語で答えた。ちなみにそんな格言はない。ぱっと考えたやつ。
明らかにジムのテンションがガタ落ちしていたので気を利かせて先に帰った。テレビはいつの間にかサッカーの試合になっていた。ラグビー応援勢がちょこちょこ帰り始める。
非常に面白い体験をした。また行きたい。
いろいろ首を突っ込んでみるもんだ。そうだろ?