目の前でポイ捨てされたので思わず話しかけた件

定時退社。自転車に乗って家まで２０分。

家のすぐ近くの交差点で赤信号に捕まって、ブレーキを引いて止まった。

すると目の前で６０代くらいの男性がゆったりと歩いて僕の横を通り過ぎた。

その時に彼はタバコを箱から取り出して、そして空になった箱を地面にポンと投げ捨てた。

おいおい〜ポイ捨てじゃないか！

僕は突然ポイ捨ての目撃者になってしまった。地面にはタバコの空箱が落ちている（よくある風景だ）そして老人はといえばそのまま信号を待っている。ポイ捨てする人間も信号は守るんだなー。まあそりゃそうか。ポイ捨てしても命に関わりないけど信号無視は自分の命に関わるもんな。自分の命に関わるならポイ捨てもしないだろうに。なんてことをぼんやり考えているうちに無性に腹が立ってきた。

自分の縄張りを荒らされた気持ちだった。自分の住んでる街で目の前でゴミを捨てられるのって相当気分悪い。うーんかといってどうしようかな。割と本気で腹がたつな。「ポイ捨てはやめましょうよ！」っていうのも小学生の標語みたいでかっこつかないしな。っていうかもうポイ捨てが発生してから１分くらい経っちゃってるからタイミング完全に逃してるんだよな。今から言っても「ああこいつ現場見てからちょっと迷ったんやな」とか思われるのも嫌だし。

っていうかあれなんだよな。逆ギレされて唾吐かれたりしたら嫌だなあ。最近怖い人多いし。このオッサン俺と何の関係もないし。いつもみたいにおっさんが苦しんで死ぬ姿を想像しながら何事もなかったかのようにやり過ごすか。

信号が青になっておっさんが歩き出す。歩きながらタバコに火をつける。げーっ今度は歩きタバコかよ。僕はそれを呆然と眺めてから「まあいいや」と独り言を言って自転車のペダルを踏み込んで横断歩道に突入した。そしておっさんを横から抜かす。おまえーポイ捨てしやがってーと心の中で毒づきながら。抜かし終えるとおっさんの吐いた煙が肺に入った。当方もともと喫煙者で嫌煙家ではないが、再来週にロードバイクのヒルクライムレースを控える身にて、不可抗力で煙を吸わされると至極気分が悪い。

それでもう我慢の限界を超えたよね。

そのおっさんを中心にUターンしてポイ捨てされた空箱を拾い上げた。

それからまた自転車の向きを変えて横断歩道を渡る。

おっさんはもう横断歩道を渡り終えて横の交番の前を悠々と歩いている。タバコをふかしながら。「おまわりさんこの人歩きタバコしてます！射殺してください！」と心の中で叫びながらペダルを回しておっさんに追いつく。

「あの！」

と耳元すぐのところで声をかけるとおっさんが驚いたように振り向く。

「落としましたよ」

と言って空箱を渡してやった。おっさんはさも、置き忘れた眼鏡や財布を拾ってもらったような恐縮したような顔をして「いやあどうも」と言って感謝するように顔を崩した。「グエエ見られていたかー！」くらい言えないのか！と思った。

まだ苛立ちがくすぶっていたので

「頼みますよ」

と吐き捨ててその場を後にした。正確には「たのんますよ」みたいな感じだったかな。どうでもいいけど。そのたのんますよっていうのは何だったんだろうなあ。我ながら。「いい歳してポイ捨てとか勘弁してくれよ」っていう含みが近いかな。でもほんとはもっと「次同じことしてるの見かけたら轢くからな」くらい言ってやればよかったと後になって後悔する。

まあ今回は相手が相手だったからよかったけど、これが相手がヤンキーだったりしたらやり返されてたかもなあ。まあやり返された時の保険として交番の目の前で話しかけたんだけど。いやそもそも怖いヤンキーが空箱をポイ捨てしても同じことできたかっていうと出来なかっただろうね。やっぱり報復が怖いから。つまり僕は相手を選んだんだな。相手が自分より弱そうだから倫理を盾に行動したんだな。そう考えると自分って卑怯だなーとか思うんだけど、そもそもこういう気分になったのってあのおっさんのせいじゃん？って考えるとつくづくやっぱり許せないわー。

明らかに悪人みたいなのがポイ捨てしてるのはまだいいんだよな。肩揺らして歩いたり眉毛剃り上げたりしながらバイクで蛇行したりとか、そういうのが悪さするのはまだ苛立たないんだけど、いかにも善人というか、どこにでもいる一般市民ヅラしてるのが誰も見てないところでちょろっと何かをちょろまかしてるのを見ると無茶苦茶頭にくる。

悪人が「あいつは悪人だ」と後ろ指さされるというコストを払っているのに対して善人は普段はテロリストは良くないって言ったり政治家が腐ってるって言ったりしながら路上にタバコの空箱を捨てたりするんだろう？そういうのが一番許せないんだよな。

悪人はまだいいけどね。善人は良くないよね。

何が言いたいかっていうと僕の目の前でタバコや空箱を捨てると追いかけます。ちなみに僕は一度タバコを目の前でポイ捨てされて、火のついたままのそれをつまみあげてその人の鞄にこっそり放り投げたことがある。どうなったかは知らん。