鈴木ユートピア

31歳、写真、キャンプ、バイク、旅

陸上部の高校生が10年後に企業対抗駅伝出る話

 

企業対抗駅伝大会

 

 

 

 

 

「どうして走るんですか?」

という声が聞こえた、気がした。

 

日曜日の企業対抗駅伝大会で、襷を肩にかけて

5kmを1km3'45のペースで走っている時のことだった。

 

 

 

 

ひょんなことから

うちの会社がマラソン大会に出ることになった。企業対抗駅伝大会。

4人1組で1人5km、合計20kmを襷で繋ぐ。

 

運動が得意そうな4人が会社から選出されて、

レースに出ることが決まって、そのうちの一人が僕だった。

 

 

 

 

 

僕は元陸上部だ。陸上部の長距離。

 

元陸上部だけど、きちんと陸上部員として走っていたのは高校時代の半分に過ぎない。あとは美大に行くために予備校に通っていた。

 

 

高校時代

 

もともと走るのなんか好きじゃなかった。

小学校の時は昼休み全てを教室で過ごしたし、中学時代は卓球部の幽霊部員だった。「のび太みたいなやつ」という自覚があった。

 

運動は全てにおいて駄目で、運動会でも全てビリだった。

勉強もできなかったし。

 

 

 

高校に入った時にふと「高校くらいちゃんと運動部に入って青春っぽいことがしたい」と思って陸上部に入った。

 

 

 

テニス部とかサッカー部とか、まあ何やるんでも中学からやってたやつになんか敵いっこないと思っていたので、「走れば走っただけ結果が出そう」という単純な発想から陸上部に入った。

ちょうど10年前のことだ。

 

 

 

 

仮入部の初日に15km走らされた。死ぬかと思った。本当に。

 

 

今まで体育の授業で3km走ったことがあるくらいの、卓球部の幽霊部員だ。15kmなんて走ったことがあるわけがない。本当に死ぬかと思った。

 

 

 

終わってから足の骨が全部砕けるような疲労が広がって、よろめきながら帰った。

一緒に仮入部で入ったやつはその日で退部した。

初日が辛くて辞めるとかダサいから、せめて1週間くらいやってから辞めてやろうと思って、気づいたらきちんと陸上部に入ってトレーニングをしていた。

 

僕は部で一番遅くて、レギュラーにも入っていなかったが滅茶苦茶しごかれた。

まあそれで結局途中で辞めてしまったんだけど。合宿で薄いポカリスエットを飲んだり、先輩に怒られたり、大会前にみんなで坊主刈りにしたり、いわゆる青春は楽しめたかなと今になって思う。

 

だから高校1年から2年にかけて、陸上部として頑張っていた以外の思い出がほとんどない。走ること以外していなかった気すらしてくる。

 

 

それだけ頑張ったくせに、最後まで部で一番遅かったし、

大会で大した成績も残さなかった。ダサダサだ。

今でも「投げ出した感」しかない。

 

 

 

 

 

仮面ライダーのセリフでこんな言葉がある。

「叶わなかった夢は、呪いと同じ」

 

 

 

 

ある意味では僕にとって走るという行為は「呪いと同じ」なんじゃないかと思う。

ゾンビ映画で、ゾンビになってしまった人が、過去の記憶を引きずって自宅の周りをうろうろするような。そんな感じ。

 

 

 

陸上部を退部した後でもちょこちょこ走っていた。

全然惰性で走ってただけだけど、なんというか、「走りグセ」って感じなんだけど、たまに走らないとムズムズする感じ。歯磨かずに寝るのが我慢ならない!みたいな。

 

 

大学では何となくバドミントン部に入って、これは意外にも初心者なりに熱心にやっていたんだけど、その日々でもちょこちょこ走っていた。

走るのはずっと一人だった。

今でも会社で走ってる人がいるけど、好きで走ってる人って全然聞かない。

運動不足解消とか、ダイエットのため、とか。僕は何のために走っているんだろう?

 

 

 

 

 

 

10年後

 

僕は走りたくて走っている。

でも今でも走るのが好きって感じじゃない。

 

とはいえ好きじゃないと1月の真冬に週3で走ったりしない。と思う。

ただただ「走らなきゃ」って思って突き動かされるように走ってきた。

.....10年間も!

 

信じられない。

 

 

 

 

会社員になってよくされる質問。「休日何してるんですか?」

 

 

僕は走っていますと答える。

相手はちょっと笑いながら「どうして」と聞いてくる。

理由なんかわからない。走らないと、体が端っこから少しずつ腐っていくような感じがして気持ち悪いだけだ。

 

 

 

先輩に言われた「1日休んだら取り返すのに1日かかる。」という言葉は今でも響いている。それで、何かを取り戻すみたいに走っている。

 

 

きちんと想いを伝えられなかった異性は時間が経った後でも夢に出てきたりする。不完全燃焼は怖い。過去を引きずる感じ。

 

 

 

 

企業対抗駅伝に時間を戻す。

高校時代一度も手にしなかった襷を、今更肩にかけて、本気で顔を歪めて走ってるの、ダッセー!と心のどこかでちょっと思いながら、それでも本気で走った。

 

 

もうそろそろ、走るのが好きだってことにしていいかなって思った。

 

 

身体全身を使って、エネルギーを前進のために変換して前へ進む。

心臓がばくばくして、息が苦しい。足を踏み出すたびに、風がびゅうびゅう身体に当たって心地良い。生きてる、って感じがする。

 

 

5kmを走り切って、他部署の人に襷を渡す。

「頑張って!」と声を絞り出すと「はい!」と笑顔で襷を受け取って

思い切り走り始めた。「あーそんなに走ったらもたないぞー」と思って笑った。

 

笑いながらこっちが倒れそうだった。

あーくっそ楽しかった。終わってしまった。

 

 

そっか襷を繋ぐのってこんな感じなんだ...と思った。

10年前の自分に見せてやりたいと思った。

 

 

これからもずっと走るんだろうなって思う。

ただプロフィールの趣味欄に「走る」とは絶対書かないだろうと思う。

趣味という意識は全くない。僕の趣味は、自転車とか、カメラとか。

 

僕にとって走るっていうのは、もっと根源的で、アイデンティティに根付いているもの。呪い。衝動。義務感。別に言葉は何だっていいんだけど、「走ってないと気持ち悪い」から走る。だから、まあこれから趣味は色々変わっていくんだろうなーとは思うんだけど、走るのはやめないだろうと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

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つづく