鈴木ユートピア

31歳、写真、キャンプ、バイク、旅

タクシー乗り場で同行者を募集した話

 

人身事故の影響で電車のダイヤが乱れ、終電電車は僕を家の最寄駅より前で放り出した。真っ暗な電光掲示板。千鳥足でホームを歩く酔っ払い。

深夜1時過ぎのよくある光景だ。

 

電車がおわってしまった以上、タクシーで帰るほかない。

僕はとぼとぼとバスロータリーのタクシーのりばへと向かった。

 

するとどうだろう。終電を逃した人が続々とタクシーのりばに並んでいくではないか!考えることはみな同じなのだ。僕が並んだ時にはもう40人くらいの人が前に並んでいた。びゅうびゅうと吹き付ける冷たい風。みんな肩をすぼめてスマートフォンの光を眺めている。列全体を漠然とみると、スマホの光がすーっと一列に並んでいて、銀河のようであった。

 

それから30分がたって、僕は半ばうんざりしていた。

どうしてこんなに列の進行が遅いのだろう?タクシーはわりとコンスタントに来ていて、どんどん人を乗せている。それなのにこの遅さはなんだ。僕はしばらく列を見ていてわかった。一人ずつ乗っているのだ。タクシー1台につき1人しか乗らないから、40人の列であれば40台のタクシーが来なければ僕の順番はまわってこないのだ。

 

だいたい、僕たちはここで終電を逃していて、これだけ人がいれば(すでに僕の後ろに40人くらいが並んでいた)同じ目的地の人もいるだろうに。例えばその人たちがグループをつくって一緒にタクシーに乗れば列はどんどん進むし、料金も割り勘で済むではないか。えっ!これすごくない?なんで誰もやらないの?

僕はそわそわし始めた。えーっ。これなんでやらないんだろう。またタクシーがやってきて僕の前の人が一人で乗り込んだ。

 

僕の家の最寄り駅であるC駅まで、確か3000円くらいでいけるはずだ。

もし同じ目的地の人をあと3人集めれば4人で割り勘できる。

ほどなくして次の空車タクシーがこちらへ向かっているのが見えた。

僕は一瞬ためらってから振り向いて声をあげた。

 

「C駅行く人、一緒に乗りませんかー!」

 

スマホの画面に顔を向けていた人たちが一斉にこちらを向くのがわかった。

すると僕のすぐ後ろの人が「あっ私乗りたいです。」と言った。それから5人後ろの人が手をあげて「私もいいですか...?」と言った。

あと一人!僕は列のずっと後ろのほうに向けて「あと一人、C駅行く方ー!」と叫ぶと、ミドルエイジのサラリーマンが手を挙げた。

 

タクシーが僕のそばまできてドアを開ける。僕はタクシーに向かいながら「乗っちゃってください!」と声をかけた。列にいた人は「いいのかな..?」みたいな素振りを若干見せながらタクシーに乗った。いいのだ。大勢乗ればのるほど列の人数は減って、並んでいる人にも利はあるのだ。

4人乗るとタクシーの中は狭い。学生、OL、ミドルエイジ、そして僕とちぐはぐな組み合わせの相乗りだ。タランティーノの映画にありそうな光景だった。それから「C駅までお願いします」と言って僕はにっと笑った。

 

OLが「ほんとに助かりました~ありがとうございました。」という以外は誰も言葉を発さなかった。それもそうだ。さっきまで赤の他人だったのだから。赤の他人だけれども、僕たちは同じ駅に住んでいて、おまけに終電を逃していた。全然関係ない人が全然関係ない理由で終電を逃し、同じ地元に向けて同じタクシーに乗っているのだ。僕もまた無言だったが、内心すごく愉快な気分だった。

 

駅についた。3000円だったので一人だいたい800円払った。

相当ざる勘定だったと思うからぴったりは割っていない。でもいいのだ。だって本当は全員それぞれ3000円払う予定だったんだから。僕は「いやー得しましたねー。みなさんお気をつけて」といってさっさとそこを後にした。今度も機会があれば絶対やろうと思ったが、まずは終電を逃すようなへまを繰り返さないようにしないとな、と思うばかりだ。

 

 

 

おしまい