現職デザイナーが妹に書いた~就活生が初めてポートフォリオをつくるときに絶対やってはいけない5つのこと~
ある日、実家に帰ってきたときに大学生の妹がこう言った。
「お兄、ポートフォリオってどうやってつくったらいいの?」
ようやく元美大生・現デザイナーの僕が妹に実務的に役立てる時が来た。
僕は東京の美大のプロダクト学部を出て、
今デザイン会社で空間デザイナーとして働いている。4年目だ。
実は僕のデスクの真後ろは僕のボスで、
新卒採用の決定権を持っている人だ。
だから振り返ると学生のポートフォリオをパラパラ眺めながら「うーん今回は駄目だな」とか呟いてたりする。
そんな光景を間近で見てきた兄から、
何かアドバイスをしてやりたい。
今回はこの記事を、悩める妹に捧ぐ。
ポートフォリオとは。
美大生や建築学生、あるいはアニメ・カーデザイン・ファインアート・デザイン、そのほかにもあらゆるものづくりに関わる学生が就職活動をする際に99.9%必要なもの―それがポートフォリオだ。
ポートフォリオとは、自分が今まで制作した作品をまとめて1冊の本にしたもののこと。デザイン職などで就活をする際には大抵企業からポートフォリオの提出を求められる。
面接・履歴書が好感触だったとしても、ポートフォリオが残念だと一気に評価が下がる。「うわべは綺麗に見せても今まで真面目にやってこなかった奴」と思われてしまう危険性すらある。
正直、そう思われるくらいなら面接・履歴書が悪くてもポートフォリオが素晴らしいほうがまだ良い。ともすれば「口下手ではあるが作るものは信頼できる」というような評価を貰えるかもしれない。
...とはいえ、当然企業によって欲している人材も違うし、ポートフォリオの見るポイントも違ってくる。
つまりポートフォリオに正解なんてものはない。
僕自身、デザイン会社をいくつも受けたが、
そのたびにポートフォリオの構成を変えて最適化していく必要があった。
今回は、そういったポートフォリオの正解などという高尚なことについて語るのではなく、もっと基本的な「ポートフォリオをつくる際」の注意点について挙げたいと思う。
さっそくはじめよう。
1準備なんてするな!今すぐ始めろ!
妹よ。お前は昨日、僕にこう尋ねた。
ポートフォリオってどうしたらいいの?
作品の数が全然足りないんだけど自主制作したほうがいいの?
自主制作ってどんなものをつくればいいの?
趣味でつくった関係のないものとか載せてもいいの?
作品の順番ってどうすればいいの?
見栄えに自信ないんだけどブラッシュアップって大事なの?
.......
妹よ。お前は真面目なやつだ。
作品で課題が出される度に悩んで悩みつくして課題に取り組む。
リサーチを欠かさず、事前準備をきっちりやって、しっかり作品を丁寧に作っていく。
お前は今度はポートフォリオ作りを前にしてあれこれ考えている。
また、真面目にリサーチをして、ポートフォリオの本を読み漁ったり、過去の優秀なポートフォリオの作例を調べて読んだりしただろう。ポートフォリオは学生の集大成だから、気張るのも無理はないだろう。
今、お前の頭の中は知識で膨れ上がっている。
また、頭の中はほかの優秀なポートフォリオで一杯なんじゃないだろうか。
しかしポートフォリオ製作において重要なのはリサーチではない。トライ&エラーだ。幅広いリサーチは逆にスタートダッシュを鈍らせる。
島耕作はこう言った。
「まず走り出せ! 問題は走りながら解決しろ!」
まずやるべきことは紙でつくった作品・スケッチ・リサーチを全てスキャンしてデータ化すること。
次に、それを作品毎にPC上で仕分けして、
ざっくりとページに落とし込んで出力し、時系列順にクリアファイルにまとめること。
妹よ、そのまとめられたクリアファイルを
何と呼ぶか知っているか?
ポートフォリオって呼ぶんだぜ。
2最初から完璧を目指すな!できるわけないだろ!
妹よ、お前は僕と違ってきちんと完成を目指すタイプだ。
実直で真面目で、突き詰めて作品と向き合い続け、教授陣から高評価を勝ち取ってきた。
しかしポートフォリオには完成がない。
ポートフォリオは人間を写す鏡。人間に完成がないのと同じように、ポートフォリオにも完成はない。だから完成を目指した途端、ポートフォリオ製作作業は終わりのない砂漠を彷徨い続けることになる。僕はそんな同期を何人も見てきた。
「全然終わらない..。今までこんなに頑張ってきたのに...もっときれいに見せられるはずだ...色をもっと整えて、フォントも合わせて...。」
僕よりずっと優秀な学生が延々とポートフォリオでつまずく。
これはまるで、マラソン大会でとっくにスタートの号令がなっているのに「靴紐のちょうちょ結びが納得いかない」と言いながら延々と靴紐を結んでいるのと同じだ。
その間に僕は雑でも未完成でも不恰好でもまずポートフォリオを「完成」させ、教授に見せたりそのまま企業面接や説明会に赴いてポートフォリオを見せまくった。
そのたびにもの凄いバッシングを食らう。批評の雨嵐。
「よくこんなの持ってきたね。」
「まだまだ駄目だよこんなのじゃ...。」
「もっと見せ方とかないの?」などなど。
僕はそれを聞いて、言われた批評を逐一メモした。
作品のページを見せて「ほらこれなんか良くないですか?!」と言うと教授は「こんなページじゃ全然わかんないよ!もっと写真を大きくしてさ、あとコンセプトの部分が全然ないじゃん。」と色々アドバイスをくれたのでひたすらそれをメモして次に活かした。
何が言いたいのか。
妹よ。
お前が見ているFaceBookの創始者、マーク・ザッカ―バーグはこう言ったんだ。
"完璧を目指すよりまず終わらせろ"
仮でも良い。雑でも良い。まずとりあえずつくっちまえ。
完成させろ。完成させれば、とりあえず作ってさえしまえば、人に見せられる。アドバイスが貰える。
綺麗なかっこいいものを作ろうとして粘っている間はお前は一人ぼっちで、誰の協力も得られぬ。言い換えれば、誰もアドバイスしてやれない。そう、僕も含めて。
3文字を入れすぎるな!誰も読まん!
妹よ。 賭けてもいいが、お前はポートフォリオを文字だらけにするだろう。
ひとつひとつの作品を真摯につくってきた学生であればあるほど、ポートフォリオは文字で一杯になってしまう。とにかく作品に思い入れがあるので説明せずにはいられないだろう。
「作品をつくった経緯」
「コンセプト」
「作品の背景」
「リサーチの手法・アプローチ」
etc.......
妹よ。お前は企業側がお前のポートフォリオをどんな風に見るかまだ知らない。
1ページに何秒くらい時間をかけてくれると思う?
1秒~2秒だ。
どんなに長くても4秒。
採用側は大量の就活生を捌かないといけないし、
そもそもポートフォリオなんてぱっぱと見れば大体わかる。
文字なんか読んじゃいないのさ。
大手だとどんな分厚いポートフォリオでも1冊10秒くらいしかかけなかったりする。僕自身何度も体験したことなので、これは本当のことだ。
作品にどれだけこだわったか、伝えたいのはわかる。
でも文字が読んでもらえない以上、お前は写真と絵でそれをきっちり表現しなければならない。文字をあれこれ書いている時間で、ほかにやるべきことはいくらでもあるのだ。
4"ポートフォリオづくり"に逃げるな!
お前のことだからもう見ただろうが、ポートフォリオ指南書には「自分だけのポートフォリオをつくろう」という項目が必ずある。
例えば製本を自分でやってみたり、全体のフォントを毎回調節して最適化してみたり。あるいはポートフォリオの木箱をわざわざ自作して、梱包して見せたりする。
妹よ、そういうことをやるのを止めはしないが、上記のような「デコレーション」をやるのは作品の完成度がLV.100のプロクリエイターのしわざだ。
お前にはもっとやるべきことがたくさんある。
「逃げるな」とは強く言い過ぎたが、ポートフォリオをつくっているとどうしても色々こだわりたくなってくる。ページごとに見出しの色を変えて、上からみると虹みたいになるとか。ポートフォリオの背表紙のデザインを始めたり。1ページ目のところに自己紹介ページをつくって、そこのために自分のロゴマークを作り始めちゃったり。
もう一度言うと、お前にはもっとやるべきことがたくさんある。
作品は1つでも多いほうがいい。ブラッシュアップに終わりはない。
企業を1社しか受けないのでない限り、企業ごとにポートフォリオの内容も変えていくべきだ。冒頭に述べたとおり、ポートフォリオに終わりはないのだから。
勝手に着地点を決めて終わらせようとしないこと。この部分はどうしても楽しくなってしまうのである程度はやってもいいが、やりすぎには注意してほしい。
5完成がないからこそ、改良をやめるなよ!
ポートフォリオが完成したら、いよいよ就職活動だ。
お前はリクルートスーツに身を包み、普段から口にしている○○とか××とか、
クッソ緊張しながら受けに行くだろう。
僕はもう目に浮かぶのだ。
「ポートフォリオは改良してるのか?」という僕の質問に対して
「忙しいからそれどころじゃない。」と返すお前の姿が。
妹よ。きいてほしい。
僕は同じポートフォリオを違う会社に送ったことは一度もない。
郵送するポートフォリオはA4でコンパクトに軽く、大企業へのポートフォリオはA2で大きく、要点だけをまとめてシンプルに。面接で持ち込むポートフォリオは写真重視でページ数を増やしてボリュームを稼いだ。
それはポートフォリオの最適化だ。
僕は先ほど言った通り、「ポートフォリオづくり」に逃げるな、と言った。
ポートフォリオは就活が終わるまで永遠に作り続けるものだからだ。
作品の追加があり、ブラッシュアップがあり、
企業に対する最適化のための構成作業がある。
そういった意味でもポートフォリオには終わりがないのだ。
以上、5つの点で「就活生が初めてポートフォリオをつくるときに絶対やってはいけない5つのこと」について書いてみた。これが書き終わったらこの記事のリンクを妹にLINEで飛ばすつもりだ。
実際にはもっと技術的なポートフォリオの作成プロセスとか、いろいろとアドバイスしたいことが山ほどあるのだけれど(うすうす気づいている人も多いと思うが、僕はポートフォリオを作るのが大好きなのだ。)それは次回の機会に譲ろうと思う。
最後に、妹よ。無理を言うかもしれないが、ポートフォリオづくりを楽しんでほしい。ある種、最後の自主制作がポートフォリオと言える。
ポートフォリオそのものも、立派なお前の作品のひとつになるだろう。
楽しくて楽しくてたまらない人がつくったポートフォリオほど、
心躍るものはないと兄は思うのだ。
つづく
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