鈴木ユートピア

31歳、写真、キャンプ、バイク、旅

お布団は乗り物

 お布団は乗り物だ。

それは圧倒的な速度で僕を明日へと運ぶようにできている。僕が眠ることで発進して、目覚めることで停止する。明日の朝まで通常は7時間くらいかかるとしても、布団に潜ってしまえばひとっ飛びなのだ。だから早く明日になって欲しければさっさと寝てしまえばいいし、明日なんて来なければいいと思うならいつまでも起きていればいいのだ。
という理屈を、誰にも話せないまま29歳になってしまった。これは本当に参った。かつて「大人になるなんてあっという間だぞ」と脅すように言った叔父さんは僕に何を伝えたかったんだろう?

 

 たぶん「いつまでも子供ではいられないのだから勉強しなさい」みたいなニュアンスなんだろうなと思う。そもそも僕は大人なんだろうか。世間的には、大人じゃないと困るんだろうな。要は後がつかえてる訳だから。かつて「子供に戻りたくなったら大人」みたいな思想がどこかにあった気がするけれど、そういうのは安直であんまり好きじゃないんだよな。そうじゃなくて、何かを定義づける時は「AだからBである」という構文にして欲しい。「AじゃなかったらB」みたいなのは、文として美しくない。気がする。

 

 しかし話を戻すけれど大人になると「お布団って乗り物ですよね。」みたいなことを言える人が極端に減るように思われる。しかし29歳の男が「あのね、お布団って乗り物でね。」と言い始めたら周りの人は凄く怖い思いをするだろうなということくらいはわかる。もっと早い段階で、例えば小学生くらいの時に言えば良かったのだ。「お布団って乗り物だよね。」と言いだせば良かったのだ。でも、やはり言えないかもしれない。急に突拍子もないことを言い出して馬鹿にされるのを恐れて、結局は言いだせなかっただろうなとも思う。当時は、もっと昨日観たアニメの話とか、遊戯王カードのレアカードが入ってるパックの当て方の話をしている方がスタンダードだった。子供ながらに実用的な話をしていたのだ。「◯◯が◯◯のようだ」という空想的な比喩表現は少なくとも主流ではなかった。そういう実用的ではない話題は小学生にとっても知的後退を意味した。しかし、僕は大人になって思うのだけれど、

 

 すぐに役に立つものはすぐに役に立たなくなる。