鈴木ユートピア

31歳、写真、キャンプ、バイク、旅

空気中テクノロジ 6

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 その受付嬢は、今日も会社の受付を守っていた。

守っているという言い方はたぶん正しい。

 

 会社を訪ねてきた人間が怪しいセールスの人間だったら追い払わないといけないし、どこの部署の誰に用があるのかを訊いて電話を使って連絡を取るのだ。

でもどんな会社でも四六時中訪問者がいるわけではない。

 そういう余暇(と言っていいのだろうか?)を彼女たちはどうやって過ごしているのだろうか。きっと適切なタスクを与えられているのだろう。例えば会社の封筒に宛名を書くとか、毎月の社報を書くとか。

 

彼女の場合はたまたま後者だった。今月は誰が異動になったとか、誰が退社することになったとか。トイレットペーパーをむやみに使わないでくださいとか、コピー用紙の使用頻度が前年度の1.05倍になっているから裏紙を使いましょうとか。

 そういえばこれは本筋とは関係のない話だけれど、コピー機メーカーからすると裏紙の使用は絶対にやめてほしいらしい。コピー機の寿命を縮めるのだそうだ。僕はその話を聞く前からそんな気がしていた。コピー機がどういう仕組みで働いているのかわからないけれど、きっとあれは繊細な装置なので、まっさらな紙でないものを入れると調子が狂っちゃうのだ。たまにできるだけ使いましょうみたいなアナウンスをする会社が存在するけれど、あれはちょっとやばいと思う。別にそれを喚起するのはいいんだけど、わざわざそれを言い出す状況っていうか...。もっとあるだろう。会議を減らしたり、無駄な残業を減らすための仕組みを作ったり、企業努力ってコピー機の裏紙みたいなものなんだろうか。

 

 話を戻すけれど、受付嬢は今日も出勤していて、しかし業務中にパソコンでソリティアをしていた。話を聞けば「退屈なので」だそうだ。社報なんて月に1度でるだけだし、誰も見てないような代物だからさっさとやれば1日で終わるような業務で、でもそれを伝えてしまうと次の瑣末な(そして必要かどうかもわからない裏紙みたいな)仕事を振られるだけだから。

 

「なので、私は黙っておいて、あとの時間は好きに潰します」と彼女は言い切った。会社員として一つの完成された態度だと思った。給料は一律で、であればあとはいかに労力を少なく労働時間を過ごすかというゲームに突入する。でもそれってあんまりじゃないか。そうやって残りの人生を過ごすのだろうか。彼女の言い分があまりに正しく、正しすぎるが故に僕は簡単に納得できなかった。

 

 

何れにせよ、ここで彼女を説得しなければ僕がここにきた意味がなくなってしまうのだ。僕は即興で、彼女が業務中にソリティアをやらなくなる方法を考えた。

 

 

続く